新刊書のご案内


朝日新聞出版社
2024年1月30日
840円  (本体)


一般財団法人日本科学技術連盟
2023年10月1日
570円  (税別)
ホームページ掲載に当たって(2021年3月)
元危険学プロジェクト グループ5
グループ長 近石康司
 危険学プロジェクトのグループの一つとして発足したグループ5のテーマは、「安全な製品」開発のための「設計の思考過程」です。本報告書は、メンバー12名の5年間の活動成果を2012年5月に纏めたものです。

 ところで、福島原発事故から9年、「浮体式原子力発電研究会」が誕生しました。COCN(産業競争力懇談会)がテーマの1つに取り上げたのです。実は私たちも福島事故1年後に「沖合浮上式原子力発電所」をテーマとして検討していました。COCNとは異なる視点もあるので、参考の一つにでもしていただければとの思いが、本報告書をホームページに掲載した直接の動機です。さらに、これ以外にも読んで頂きたいテーマがありますので、以下「図0-0-0活動報告書の概要図」に従って説明します。(クリックすると本文の該当部に飛びます)


設計の思考過程


     
       本質安全
制御系に頼ることなく、自然法則の活用,機構等により確保された安全
    
  
             設計手法
現状に囚われず、最上位概念である「実現したいこと」まで遡って、従来にない新しい製品を考える設計手法
    
               実施例   
     
    
    
(子供も分かりやすい) 「危険ホール」と「危険地図」
危険の本質構造を表した「危険ホール」図と、危険を避ける「危険地図」
    
図0-0-0活動報告書の概要図

 まず安全に関しては、私たちは制御系に頼らない安全を「本質安全」と定義しました。世の中は、自動運転車やAIなどひたすら「制御に頼る安全」に向かっているように見えます。そうであるからこそ、制御系に安易に頼る前に、まず「本質安全」を考えることが重要と思います。しかし、「本質安全」を実現するには基本構造の変更が必要なことも多く、困難を伴います。これを解決するためには、広い見識と従来の発想に捕らわれない柔軟な思考と設計手法が必要になります。これを「独創的」製品(を開発するため)の設計手法」と称しました。
 ここでは、いくつかの実施例で、「本質安全」を実現するための新しい構造を考えてみました。そしてその考えた過程をフィードバックして独創的製品を生み出す「設計手法」としてまとめました。
   この手法は、設計だけでなく、世の中で初めてのことにチャレンジする多くのケースに共通する概念と思いますので興味のある人は是非ご覧ください。

 具体例の一つに原子力発電所があります。ここでは、「沖合浮上型原子力発電所(エアーサスペンション付き)」を紹介します。
 2021年度のCOCN(産業競争力懇談会)のテーマの一つとして前述の「浮体式原子力発電研究会」があります。沖合に原発を浮かべるという基本概念は同じですが、我々の案は更に「エアーサスペンションで支える」との概念を基本としています。これは車に例えるとサス付車に例えることもできます。例えば、衝撃吸収・ダンパー機能・スタビライザー(アンチローリング)機能等、車と同様のメリットが期待できます。興味のある方は一度ご覧ください。
 文面の修正について、一言お断りします。このテーマは福島事故のほぼ1年後に執筆しました。当時の世の中はまだまだ混乱しており、原発についても否定的な風潮に満ちていました。このような状況を理解していただくためにも文面は修正せず、そのまま残しました。但し、誤解を避ける等やむを得ない個所および明らかな凡ミスはコメント欄を追加して修正内容および修正理由を記載することにしました。ご了解ください。

 上記の設計手法とは離れますが、日常の生活において、危険をどのように認識し、避ければ良いかについて「危険ホール」と「危険地図」について図解しました。小さいお子様にも分かりやすい概念かと思いますので、ご参考にしていただければ幸甚です。

 最後になりますが、ホームページ掲載については、危険学プロジェクトの責任者である畑村洋太郎先生にご助力いただきました。先生は福島事故の政府事故調査委員会の委員長としても活躍されましたが、危険学プロジェクトでは福島事故が起こるよりはるか以前から「原発の安全」について強い関心をお持ちでした。私たちもその熱意に押されて「原子力発電」のテーマを途中から追加したいきさつがあります。今回その検討結果をホームページで公開する機会を頂いたことを改めて感謝致します。